MedDRAコーディングとは何か
医薬品の安全性情報管理(ファーマコビジランス)において、有害事象のコーディングは最も重要かつ時間のかかる業務の一つです。 医師や患者から報告された症状の記述(ナラティブ)を、国際的な標準辞書であるMedDRA(Medical Dictionary for Regulatory Activities)のPreferred Term(PT)に正確にマッピングする必要があります。
この作業は一見シンプルに見えますが、実際には高度な専門知識を要します。 たとえば「薬を飲んだ後にふらふらした」という記述に対して、「浮動性めまい(Dizziness)」なのか 「回転性めまい(Vertigo)」なのか、あるいは「失神寸前の状態(Presyncope)」なのかを判断するには、 臨床的なコンテキストとMedDRAの階層構造を深く理解している必要があります。
なぜ時間がかかるのか --- PTC規則の壁
MedDRAコーディングの難しさは、単純な用語マッチングでは解決できない点にあります。 ICH(日米EU医薬品規制調和国際会議)が定めるPTC(Points to Consider)には、コーディングに関する詳細な規則が定められています。
- 診断名と個別症状の関係(PTC 3.5.1): 診断名が報告されている場合、個別の症状はコーディング不要。ただし、診断に含まれない症状は個別にコーディング
- 既存疾患の取り扱い(PTC 3.5.5): 既存の疾患が悪化した場合のみコーディング対象。安定している場合は対象外
- 報告情報の忠実な反映(PTC 2.10): 報告された情報をすべてコーディングするが、報告されていない情報を追加してはならない
症例の内容によっては、経験豊富なPVスペシャリストでも1ケースあたり30〜60分を要することがあります。 CRO(開発業務受託機関)ではケースあたりのコスト削減が常に課題となっています。
AIによるアプローチ --- 「代替」ではなく「支援」
私たちが開発したMedimon(メディモン)は、MedDRAコーディングを完全に自動化するツールではありません。 あくまでPVスペシャリストの業務を支援する「AIアシスタント」です。
なぜAIだけで完結させないのか。それは、安全性情報の判断には症例背景と根拠の確認が必要で、 AIだけで誤りを完全に排除することはできないからです。 AIの出力はあくまで「提案」であり、最終判断は必ず専門家が行います。 これは Human-in-the-Loop(人間参加型)と呼ばれるアプローチです。
Medimonの目標は、1ケースあたり60分かかっていた作業を15分に短縮すること。 AIがドラフトを作成し、スペシャリストがレビュー・修正する。 このワークフローにより、専門家が確認できる品質を保ちながら作業時間を短縮することを目指します。
精度を固定値で語らない --- 条件を明確にした継続検証
Medimonでは、PV実務経験者が確認した合成ナラティブを用いて、 AEの抽出とMedDRA候補を継続的に検証しています。ただし、結果はモデル、プロンプト、 出力仕様、評価基準によって変わります。過去の検証値を、そのまま現在の製品や実症例の精度として扱うことはできません。
条件を固定
モデルと評価基準を明記
継続評価
更新ごとに結果を確認
人が確定
AI出力は確認前の候補
目指しているのは、根拠の分からない自動確定ではなく、スペシャリストが確認しやすい候補を提示することです。 利用者は原文と候補を照合し、「承認」「修正」「却下」を判断できます。
検証結果を案内する場合は、対象データ、モデル、製品版、評価方法を明記します。 数値だけで判断せず、自社の代表的な症例と品質基準で確認していただくことを前提としています。
AI処理と保存先を分けて開示
製薬企業にとって、データの取り扱いは最重要課題です。 MedimonのAI処理はAWS東京リージョン(ap-northeast-1)で行います。単発コーディングは、通常の利用だけで症例として保存されることはありません。 ログイン後に保存を選んだ場合と、症例処理機能で保存したデータは、Beta版ではSupabaseの シンガポールリージョンに保管されます。
- AI処理はAWS東京リージョンで実施
- 保存するデータと保存先は、保存前またはプライバシーポリシーで案内
- 通信はすべてTLS 1.2以上で暗号化
- AIモデルの学習にユーザーデータが使用されることはありません
日本の製薬企業が安心して評価できる環境を整えることが、 市場参入における必須条件だと考えています。
無料でお試しいただけます
MedimonのMedDRA Auto-Coderは、現在無料でご利用いただけます。 有害事象のナラティブを入力するだけで、AIがMedDRA PTを提案します。 SOC、HLGT、HLT、PT、LLTの全階層を表示し、 各提案には信頼度スコアとPTC規則の引用を付与しています。
今後の展望
MedDRA Auto-Coderは、Medimonが目指すICSR(個別症例安全性報告)処理プラットフォームの第一歩です。 現在は、原文書の取込、AE抽出、評価、続報差分、QC、伝送項目入力までをひとつの症例データで扱えます。 既存の安全性データベースと併用する段階的な導入にも対応しながら、将来的には安全性データベースとして 一連の業務を担える製品を目指しています。